抗生剤の規制について

(前回のつづき)では抗生剤・抗生物質をはじめとする抗菌薬がなぜ規制されなければならないか、上述したように抗菌薬の乱用は必ずと言っても良いほどその薬剤に対して耐性構造を獲得した菌類が出現する。するともはや同じ薬剤ではその菌は薬剤に対し感受性が無くなってしまう。とりわけ人工の抗菌薬はその作用機序(殺菌、静菌のメカニズム)が酵素レベルのものが殆どで、菌類がこのカラクリを見抜いて遺伝子を変化させて耐性を得てしまうからだ。一旦耐性化してしまうと、他の種類の抗菌薬に対しても薬剤耐性を獲得しやすい状態になってしまい、この事を交差耐性と呼ばれているようだ。今やアジアのある国をはじめ多くの国が、従来より頻繁に利用した古いタイプの抗生剤・抗生物質を多量に輸入し、農業・畜産関係などに広く利用して肥料にも多量に混入し使っているという。その結果、抗菌薬に強い耐性を得た高度薬剤耐性菌の出現が大きな問題になっているという。細菌類の耐性構造の獲得は薬剤によって様々だが、菌類に対する細胞壁合成阻害・蛋白質合成阻害・DNA転写阻害などの作用機序(殺菌、静菌のメカニズム)をもって、いずれもヒトがもっていないもの、もっていても構造が異なる部位を標的としているため人畜無害とされている。
しかしながらヒトは食物を、それこそ天文学的数字に上る様々な菌類によって化学変化させ分解吸収し、栄養源として取り入れて多様な菌類と共存している。ところが多くの抗菌薬は標的とする菌に対して致命的な毒性を発揮するが、副作用として多くの有用菌にも攻撃を加えてしまう。薬剤耐性菌は抗菌薬の乱用によって出現したものであり、乱用を避ければこうした問題は生じなかったと言える。
最新の抗菌薬に対しても効かない多剤耐性菌が大きな問題になっている。一方で増えているのは耐性遺伝子で、菌類は単なるその遺伝子の担体であるというこれは実に怖ろしい事である。特に抗菌薬の存在を前提とした各種手術については深刻な問題である。これらの薬剤耐性菌の遺伝子は菌種の壁を越えて伝搬する。人間の常在菌聡にこの遺伝子が侵入してくることを考えると想像を絶する問題となる。

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