子どもながらのプライド

少し待っていると確実にメジロが2~3匹、囮籠(おとりかご)に近づいてくる。この時が一番ワクワクして緊張する。そして、鳥モチにメジロが掛かる。飛んできて足元にモチがくっつき、上体だけが慣性で前につんのめるので、必ず回転するようにさかさまにになって掛かる。この時、隠れていた笹薮から飛び出し出来るだけ早くメジロをモチから外さないと、羽などにモチが付いて厄介な事になってしまう。
とらえたメジロは風呂敷に包んで籠に入れる。包んでいないと逃げようとして籠の目をついてしまいケガをする。こうして何匹かを捕らえて仲間と分けて飼育がはじまる。野生の鳥だが少しずつ人間に慣れ、餌もよく食べるようになり環境にも慣れてくる。毎日容器に水を張り、水浴をし清潔な鳥でもある。
何のために飼うかだが、鳴き声の美しさを仲間と競うのである。この鳥の鳴き声は餌によって大きく変化する。どんな餌を与えるかは秘密中の秘密で、鳴き声のランクは3段階に分かれ、ランク順に、ツヤチョン → ツイリン → チーなのである。ツヤチョンの鳴き声が奏でられるように飼育するのは至難の業で、しゃもじ菜などの柔らかな菜っ葉をすり鉢で砕き、ヌカやビスケットの粉などを使うというが、私は何度挑戦しても成就したことはなかった。本当にこの鳴き声を持ったメジロがいたかどうか、少年期を過ごしている間は確認できなかった。
一方、ツイリンは少し大切に可愛がれば割合容易に鳴かせることができるが、それでも結構難しいのでツイリンを持っていれば威張ったものだった。これは柑橘類をいつも餌として与えていれば鳴き出すことになる。
一番低ランクのチーだが、これは何もしなくてもいい加減な餌で十分、いつもサツマイモを蒸かした餌ばかりを与えていると、とても短くチーと醜く鳴くのでこの事を ”芋チー” と言い、これのオーナーは手厳しく軽蔑されたものだ。もっとも戦後間もない当時は食品としての芋は貴重で、たかがメジロの飼育にビスケットなどはとても使用できず、ツヤチョンと鳴くメジロは幻的な存在だった。そして飼育する以上、”アイツのメジロは芋チーだ” とは絶対言われたくなかった。こんな感じで、子どもなりにそれぞれやることにプライドがあったように思う。

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