ブラジルの養蜂事情

2017.09.28

ユーカリの木

前回に続き燻煙器の話をしたい。私が長く暮らしたブラジルの養蜂は、ニュージーランドとは随分違う。燻煙器の大きさだが、NZで使っているものはまるでオモチャそのものだ。ブラジルで使っているものは大きさが楽に5倍はある。燻煙筒の背後には、昔の鍛冶屋が使っていた鞴(ふいご)同然のものが付けてあり、力一杯両手を使って送風し、大量の煙を巣箱内に充満させる。この作業は一気にやらないと酷い目に合うので、たまったものではない。

昔のブラジルは蜂蜜生産で世界的な産地であったが、ある時期(1990年代中頃)を境に輸入国に転じてしまった。その経緯はこうだ。
サンパウロの学者が、アフリカ系のミツバチが病気に強く採蜜量もセイヨウミツバチと比べ格段に多いので、品種改良に目を付けた。本当によせばいいのにである。これから先は如何にもブラジルらしく、笑い話というのか悲劇の始まりである。

アフリカから取り寄せたミツバチが、ずさんな取り扱いによって研究室から逃げ出した。この種のミツバチはとんでもないほどの凶暴性と繁殖力があり、瞬く間にブラジル全土(日本の24倍もある)に広がり、人は勿論、馬・牛まで何人、何頭死んだか解らない。通常のセイヨウミツバチの行動半径は2km 程度である。しかしこのハチは10Kmにも及び、中には何処かに泊まって朝帰りする不届き者もいる。後で分かったことだが、普通のミツバチは移動するのに円を描くように進むが、このハチは直線的に目標に飛ぶ。大きさは普通のミツバチより少し小さいが、とにかく攻撃力がとてつもなく強力なのだ。ミツバチは、敵とみなしたら攻撃フェロモンを出し仲間を呼ぶことになるが、アフリカ蜂はそのフェロモン量がとりわけ多い事から攻撃力がもの凄い。

網でできた面に、まるで特攻機さながらポンポン音がする程に突撃して来る。お蔭で養蜂をする者が誰も居なくなってしまい、上記のようにハチミツの輸入国になってしまったという情けない話だ。その後この種のハチは北上を続け、現在は北米に達し、殺人蜂などとマスコミで騒がれているがそうでもない。雑婚を繰り返すうちに当初と比べ大分温和になったのだ。それでも攻撃性は強く、前述のようにとんでもなく大型の燻煙器で多量の煙を要し、作業を終えても面布を取ることは出来ず、執拗に追いかけてくる。そのままで蜂場近くにおいた車に乗り込み、少なくとも100m以上離れてから車のドアを開け燻煙器で車内を再度煙で充満させ、そのまま窓を開けハチを追い払いながら、しばらく走って初めて防御服を脱ぐことができる。現在はこのハチの事を”アフリカナイズドビー (Africanized bees)”と呼び、プロポリスをたくさん集める習性もあり何といっても病気に強いので、何とか手懐けてやっているのが南米の養蜂である。

当時、リオデジャネイロで開催された世界養蜂会議の席上、ブラジルの学者たちのアフリカナイズドビーについての講演があったが、いかにも彼らの努力が実り、現在のユニークな養蜂が存在するなどと発表していた。私に言わせればアフリカから入れた凶暴蜂が逃げ出しただけの話であり、この犠牲者は犬死である。いかにもブラジルらしい Um País Brincadeiro(冗談の国)であり、こんな感じの話はブラジルにはどこにでもある Um País Brincadeiro であり、それこそ当事者にとっては冗談話ではないのである。

参照:1989年10月ブラジル・リオデジャネイロ市で開催された”第32国際養蜂会議”の席上において、ブラジル側代表が当時のアフリカ化ミツバチについての状況報告に触れ、あたかも品種改良を施した結果、現存する生産性が高く独特なプロポリスを産する品種が生まれたかのごとく発表をしています。これは自己の非を認めようとしないラテン系民族の特徴を端的に表しているよい例ですが・・・。http://www.tcn.co.jp/pps/propolis/report.htm (弊社サイトより)

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